キックとベースは、現代の音楽において最も重要なパートといえます。
この2つのパートをミックスするのは、ミキシングの中でも最も難しい工程のひとつです。
この記事では、キックとベースをうまくミックスする方法について解説します。
キックとベースをミックスするのが難しい理由
キックとベースを適切にミックスするのは、なぜ難しいのでしょうか。
それは、キックとベースが同時に同じ帯域で鳴ってしまうため衝突してしまうからです。
結果として、音のこもったパンチのないサウンドになってしまいます。
キックとベース、それぞれに適切なスペースを確保することで、分離がよくパンチ感のあるミックスになります。
キックとベースのミックスのやり方
キックとベースを、分離よくクリーンにミックスするには、時間的、周波数的に住み分けさせる必要があります。
時間的にキックとベースの棲み分けを行うには、なるべく同時にキックとベースが鳴っている状態を避けることです。
周波数的に棲み分けさせるには、同じ帯域でキックとベースがぶつかることを避けることです。
この2つの棲み分けを行うことで、キックとベースそれぞれのスペースが確保され、安定感がありパンチのあるローエンドをつくることができます。
キックとベース以外のパートの低域をカットする
キックとベースをロー・エンドで適切にミックスするには、ロー・エンドの帯域にキックとベースのためのスペースを確保することが必要です。
そのために、キックとベース以外のパートに、100~120Hzぐらいでハイ・パス・フィルターをかけて低域をカットしましょう。
これで、キックとベースのためにロー・エンドを空けることができます。
もし、低域をある程度残しておきたいパートがある場合は、ハイ・パス・フィルターとロー・シェルフ・フィルターを使って調整しましょう。
キックとベースの30Hz以下をカットする
30Hz以下の帯域を再生できるサウンドシステムは、ほとんどありません。
このため、30Hz以下は不要なのでハイパスフィルターでカットします。
キックとベースに、30Hzでカーブの急峻なハイパス・フィルターをかけて超低域をカットしましょう。
この帯域をカットすると、他の帯域のためのスペースが空くので、全体的に音が大きくなり前に出てきます。
ディケイ・タイムを調整する
キックとベースのディケイ・タイムを調整することで、キックとベースが重なる時間を短くすることができます。
キックとベースの両方ともが、長いディケイ・タイムの音色になっていると、音のテイルの部分でもキックとベースが重なり続けてしまい、すっきりとしたミックスすることができません。
ディケイ・タイムの長い音色を用いるのは、キックとベースのどちらかにすべきです。
つまり、キックがディケイ・タイムの長いブーミーな音色の場合は、ベースはディケイ・タイムの短いパーカッシブな音色を使うべきです。
逆に、ベースのディケイ・タイムが長ければ、キックにはディケイタイムの短い音色を使うべきです。
こうすることで、キックとベースが重なったときでも、音のテイルの部分はどちらかのみが鳴ることになり、スッキリとした音になるのです。
短い音を上に、長い音を下に置く
キックとベースを周波数スペクトル的に棲み分けさせるためには、どちらかを上の帯域に置き、もう一方を下の帯域に置く必要があります。
キックとベースのどちらを上に置くべきか、決まりはありません。
曲やアレンジによって適切な配置は異なります。
おすすめのやり方は、30~60Hz のローエンドの帯域を長く使用する方を下の帯域に置くという方法です。
つまり、キックとベースでディケイ・タイムの長い方を下におけばよいということです。
そうすることで、ローエンドに安定感のあるミックスにすることができます。
例えば、キックがファットでブーミーなサウンドであれば、ベースは上において、下にキックのためのスペースを開けます。
逆に、ベースをファットに鳴らしたい場合は、キックは上に置いて、ベースのためにサブベース帯域を残します。
イコライザーでスペースをつくる
イコライザーを使用して、キックを優先する帯域とベースを優先する帯域をつくります。
こうして、キックとベースのためのスペースを住み分けさせれば、クリアでパンチのあるローエンドをつくることができます。
例えば、キックの50Hzをブーストし、反対にベースは50Hzをカットして50Hz帯ではキックを優先します。
100Hz帯では、ベースをブーストし、キックをカット。
500Hz帯では、キックをブーストし、ベースをカットというようにしてスペースを割り振ります。
どの帯域をどちらに割り振るかは、音色やアレンジにより異なります。
サイドチェーン・コンプレッサーを使う
サイドチェーン・コンプレッサーを使って、キックが鳴っている時だけベースを圧縮すれば、キックを前に出しパンチのあるサウンドにすることができます。
ベースにコンプレッサーを挿して、キックの信号をコンプレッサーのサイドチェーンに送ってトリガーします。
サイドチェーン機能は、DAWに付属している普通のコンプレッサーに搭載されています。
アタック・タイムは最短、リリース・タイムは短めから中ぐらいにします。
マルチ・バンド・コンプレッサーを使う
マルチ・バンド・コンプレッサーのサイドチェーンを使って、キックが鳴ったときだけ、ベースのローエンドを圧縮すれば、キックのためのスペースをつくることができます。
これは、シングル・バンドのコンプレッサーでサイドチェーン・コンプをかけるのと似た手法です。
シングル・バンドのコンプレッサーでは、キックが鳴ったときにベースの全帯域が圧縮されます。
一方、マルチ・バンド・コンプレッサーを使えば、ベースのローエンドだけを圧縮し、その他の帯域はそのまま通過させることができます。
これにより、ローエンドにキックのためのスペースをつくりつも、ベースのアタックの中高域を残して、ベースのアタック感が失われるのを防ぐことができます。
ダイナミック・EQを使う
ダイナミックEQは入力音の音量に反応して、EQのゲインを自動で調整するイコライザーです。
ダイナミックEQのサイドチェーンを使って、キックが鳴ったときだけ、ベースにEQをかけることができます。
この処理は、マルチ・バンド・コンプレッサーのものと似ています。
マルチ・バンド・コンプレッサーはクロスオーバー・フィルターで選択した帯域をまるごと圧縮することしかできません。
これに対して、ダイナミックEQでは、ベル・カーブのフィルターやシェルフ・フィルターを使用して、よりピンポイントで精密な処理が可能になります。
通常の静的なEQをベースにかけると、キックが鳴っていない場合もずっとEQがかかってしまうます。
それに対して、ダイナミックEQを使えば、キックが鳴っていないときは、元のベースの音をそのまま通過させ、キックがなったときだけEQをかけてキックのためのスペースをつくることができます。
バスコンプでキックとベースをまとめる
キックとベースを、個々のパートで処理できたら、キックとベースをバスコンプでまとめましょう。
キックとベースをバストラックに送り、バスコンプをかけて密着させれば、より安定した締りのあるローエンドにすることができます。
倍音を付加する
キックとベースに、アタック感を出すには中高域の成分が、テイル部分の存在感を出すには中低域の成分が必要です。
もし、元の音色にこれらの帯域の成分が足りなければ、サチュレーターやエキサイターを使って、倍音を付加しましょう。
中低域にしっかりと倍音を出しておくと、ラップ・トップやイヤホンなどの再生環境でも、キックやベースのテイル部分をはっきりと聴かせることができます。
100Hz以下はモノラルにする
キックとベースに限らず、全体のミックスにおいて100Hz以下はモノラルにしましょう。
こうすることで、低域に安定感のあるミックスにすることができます。
低域をモノラルにするには、MS処理ができるイコライザーで、サイド成分の100Hz以下をカットします。
まとめ
キックとベースをしっかりと分離させパンチのあるサウンドにするのは、ミキシングにおいて非常に重要です。
この記事を参考に、いろいろな手法を試してみましょう。