マルチバンドコンプレッサーは、ミキシングにおいて重要なエフェクトのひとつです。マルチバンドコンプレッサーを使えば、繊細で透明なダイナミクスの調整が可能になります。
この記事では、マルチバンドコンプレッサーの仕組みと使い方について解説し、おすすめのVSTプラグインソフトを紹介します。
マルチバンドコンプレッサーとは
マルチバンドコンプレッサー(Multi Band Compressor)とは、オーディオ信号を複数の帯域に分けて、それぞれの帯域に別々のコンプレッサーをかけられるエフェクターです。
トラックの特定の周波数帯域だけを圧縮すること、あるいは、帯域ごとに異なる設定のコンプをかけることができます。
例えば、低域のみにコンプレッサーをかけて、中域と高域はそのまま通過させたり、低域と高域で異なった設定のコンプレッサーをかけたりすることができます。
シングルバンドコンプレッサー (普通のコンプレッサー) と異なり、狙った帯域だけを圧縮できるので、より繊細で透明な圧縮が可能になります。
マルチバンドコンプレッサーの仕組み
マルチバンドコンプレッサーは、オーディオ信号をいくつかの帯域に分割するフィルターと、複数のコンプレッサーによって構成されています。
入力されたオーディオ信号を帯域ごとに分割し、それぞれの帯域ごとに別々のコンプレッサーをかけます。その後、それらのオーディオ信号をミックスして出力します。
コンプレッサーは、一般的なコンプレッサーと同じもので、レシオ、スレショルド、アタック・タイム、リリース・タイムが設定できます。
マルチバンドコンプレッサーの使い方
主にダイナミクスの修正に用いる
マルチバンドコンプレッサーは、基本的には、ダイナミクスの問題を修正する用途で使われます。積極的に音を変えるエフェクトとしては、あまり使われません。
コンプレッサーの設定は、ゆるめにかけることが多いです。1:2程度の低いレシオ、1~2dB程度のゲイン・リダクション、長めのアタックとリリースといった設定です。
主に1つの帯域のみを圧縮する
マルチバンドコンプレッサーは、ほとんどの場合1つの帯域のみを圧縮し、それ以外の帯域は何もせずに通過させて使用します。すべての帯域に対して、圧縮を施さなければならないわけではありません。
例えば、低域のみにコンプレッサーをかけて、それ以外の帯域はコンプをかけずに通過させる。あるいは、高域のみにコンプレッサーをかけて、それ以外の帯域はコンプをかけずに通過させるというようにして使います。
シングル・バンド・コンプレッサーとの使い分け
マルチバンドコンプレッサーと通常のシングルバンドコンプレッサーはどのように使い分けるのでしょうか?
圧縮したいのが、ある帯域のみであれば、マルチバンドコンプレッサーを使い、全帯域を圧縮したければ、シングルバンドコンプレッサーを使います。
例えば、ボーカルで低域が出すぎている箇所があるとします。マルチバンドであれば、問題のない中域・高域には変更を加えずに、問題のある低域のみを圧縮しすることができます。一方、シングルバンドであれば、出過ぎた低域によって圧縮が開始されると、問題のある低域だけでなく、問題のない中域・高域まで圧縮されてしまいます。
このように、全帯域を圧縮したい場合はシングルバンドコンプレッサーを使い、一部の帯域のみを圧縮してそれ以外の帯域は圧縮したくない場合はマルチバンドコンプレッサーを使います。
EQとの使い分け
上記の例と同じく、ところどころで低域が出すぎているボーカル素材があった場合、低域をカットするイコライザーをかけたのではだめなのでしょうか?わざわざマルチバンドコンプレッサーを使う必要があるのでしょうか?
EQで低域をカットすると、低域が出過ぎたときだけでなく、曲の始めから終わりまで、ずっと低域がカットされ続けてしまいます。一方、マルチバンドコンプレッサーを使えば、低域が出過ぎたときだけ低域を圧縮してカットし、低域が出すぎていなければ、低域をそのまま通過させることができるのです。
これは、低域をカットするEQをオートメーションで動かしたのと同じことです。これを、オートーメーションを書かずに自動で行うことができるのがマルチバンドコンプレッサーなのです。
このように、曲の頭から終わりまで、ずっとある帯域をカットするのならEQを使い、過剰に出たときだけカットするならマルチバンドコンプレッサーを使います。
単一のパートにも、バスにも使える
マルチバンドコンプレッサーは、単一のパートにも、複数のパートをまとめたバス・トラックにも使うことができます。
例えば、ボーカルのトラックにかけて、子音の過剰な破裂音を圧縮して、ディエッサーとして使ったり、あるいは、マスタリング時にステレオ・ミックスの過剰な低域を圧縮したりすることができます。
マルチバンドコンプレッサーの使い方
2バンドで始める
全帯域をふたつの帯域に分けて、片方の帯域にコンプをかけて、もう一方の帯域は、なにもせずに通過させます。
クロスオーバー周波数の調整
圧縮をかけるほうの帯域をソロにして、問題のある帯域がすべて含まれるようにクロスオーバー周波数を調整します。
帯域は問題全体を収めるのに十分な幅である必要がありますが、その周囲の良好な周波数を除外するのに十分に狭くする必要があります。
設定が終わったらソロを解除します。
スレショルドの調整
問題の帯域が大きくなりすぎたときに圧縮を開始するようにスレショルドを調整します。
レシオ、アタック、リリースの調整
適切な圧縮になるようにレシオ、アタックタイム、リリースタイムを調整します。
おすすめマルチバンドコンプVSTプラグインソフト
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シンプルなマルチバンドコンプ
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C6 Multiband Compressor / Waves

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C6 Multiband Compressor / Waves は、4バンドのマルチバンドコンプと2バンドのダイナミック EQを合体させたプラグインです。
マルチバンドコンプで広い帯域を処理しつつ、ダイナミックEQでピンポイントの処理をするということができる便利なプラグインです。
定番のバンドルには入っていませんが、単品購入でも安いのでおすすめです。


OTT / Xfer Records(フリー)
OTT / Xfer Records は無料の3バンドのマルチバンド・コンプレッサーです。
OTT / Xfer Recordsまとめ
マルチバンドコンプレッサーは、一見すると難しそうなエフェクターですが、ひとつの帯域だけ圧縮するのであれば、とくに難しいものではありません。マルチバンドコンプレッサーを使いこなすことで、繊細なダイナミクスの調整が可能になり、ミックスは飛躍的に改善するでしょう。
ミキシング・マスタリングについてさらに詳しく学びたい方にはこちらの本がおすすめです。