この記事では、リニアフェイズEQとは何か?メリットとデメリット、使い所について解説し、おすすめのリニアフェイズEQ・VSTプラグインソフトを紹介します。
おすすめリニアフェイズEQ・VSTプラグインソフト
Pro-Q3 / FabFilter
Pro-Q3は、業界標準のイコライザープラグインです。プロのミキシングエンジニアから、DTMerまで大人気の製品です。
直感的に使いやすいインターフェースで作業効率がよいです。
ダイナミック機能、リニアフェイズ機能、MS処理機能などデジタルEQに求められる機能のほぼすべてを網羅しています。
音は色付けのない透明な音色で、問題のある帯域をカットする用途に適しています。アナログ的な独特の色付けはないので、ブーストして音を前に出すといった用途には向いていません。
別のトラックの音とのかぶりを表示する機能があり、キックとベースのかぶりの調整などが簡単にできます。
Kirchhoff-EQ / Three-Body Technology
Kirchhoff-EQ / Three-Body Technology は、Fab-Filter Pro-Q 3の強化版とも言えるEQです。
大雑把に言うと、Pro-Q 3にアナログEQを足して、超低ノイズ化したようなEQです。
2021年11月に発売されました。中国のメーカーThree-Body Technologyが開発しています。Three-Body Technologyは、これまでは中国の民族楽器音源などをリリースしていたあまり知られていなかったメーカーです。
32バンドまで使え、EQカーブはビンテージEQをモデリングした30種類のフィルターとデジタルの11種類を合わせて41種類を登載しています。
高度な技術により超低ノイズでクリアなサウンドを実現しています。
また、アセンブリコードを手書することで、高機能にもかかわらずCPU負荷も軽くなっています。
Linear Phase EQ / Waves
Linear Phase EQ / Waves は、シンプルなリニアフェイズEQです。
位相ずれやトランジェントのにじみを発生させることなくEQをかけることができます。
音の変化を最小限に抑えたいマスタリング時に最適です。
収録バンドル: Platinum, Diamond, Horizon
QRange / lkjb
QRange / lkjb は、無料のリニアフェイズEQプラグインです。
MS処理にも対応しています。
レイテンシーなしのミニマムフェイズEQモードもあります。
リニアフェイズEQとは?
リニアフェイズ・イコライザー(Linear Phase: 線形位相)は、位相ズレ(フェイズシフト)が起きないイコライザーです。
位相ズレがない
位相ズレとは、音がEQ・フィルターを通過するときに、周波数により通過する時間が異なり位相・タイミングがずれてしまう現象のことです。
例えば、EQ・フィルターの設定により、低域が高域よりも遅れたり、高域が低域より遅れたりします。
大きな位相ズレが発生するのは、帯域幅の狭いベルカーブのフィルターでゲインを極端に上げ下げするときや、急勾配のハイパス/ローパスフィルターをかけた場合などです。
普通のイコライザーは、ミニマムフェイズEQと呼ばれ、位相ズレを発生させます。
リニアフェイズEQは、デジタル技術であるため、アナログのハードウェア・イコライザーは、すべて位相ズレを発生させます。
位相ズレが問題となりやすいのは、位相が同一な複数の信号に個別にEQ・フィルターをかける場合です。
例えば、コンプレッサーやサチュレーターなどのパラレルプロセッシング場合や、同じソース、(スネアなど)を複数のマイクで録音したものをミックスする場合です。
このようなときに、個別にEQをかけて位相ズレが発生すると、EQをかけてない信号と干渉し、ある帯域は増幅され、ある帯域は減衰するということがおこります。
リニアフェイズEQを使えば、位相ズレがないためこのような問題は起こりません。
プリリンギングがある
リニアフェイズEQは、位相ズレを発生させませんが、プリリンギング(Pre-Ringing)という副作用を起こします。
プリリンギングとは、トランジェントの鋭いキックやスネアなどに、リニアフェイズEQをかけたときに、音が時間的前方へにじみ出すような現象のことです。
例えば、「タンッ」というスネアの音が「スタンッ」という感じに変化します。
レイテンシーがある
リニアフェイズEQは、大きなレイテンシーを発生させます。 レイテンシーは、DAWによって自動で調整され、他のトラックとタイミングがずれるということはありません。
リニアフェイズEQをいつ使うか
リニアフェイズEQの使い所は、位相が同一な複数トラックに個別にEQをかけるときや、極端なカーブのEQをかけるときです。
- パラレルプロセッシング時
- 同一ソースの複数マイクによる録音のミックス時
- マスタリングでのMS処理時
- レコーディング音源から部屋の共鳴をカットするとき
- 極端なスロープのハイパスフィルターでの低域カット時
これらのようなケースでは、普通のEQ(ミニマムフェイズEQ)よりもリニアフェイズEQを用いたほうがよい結果が得られる場合があります。